５月某日。
「あ。今日、休みみたいです……」
助手席の部下が、窓の向こうを見てつぶやく。老舗和菓子店には臨時休業の紙が貼られていた。
ここの豆大福は得意先の会長の好物だった。今日はこれから契約更新のお願いに行く。気難しい人物で契約に漕ぎつけるまでも大変だったが、同業他社が営業をかけているという噂が耳に入っている。失敗はできない。
「近くで他に豆大福売ってる店、すぐに探します！」
予想外のできごとに狼狽えながら、部下がスマホで検索を始める。
「心配するな」
私は彼に声をかけると、Audi coneect Navigatorに接続した。24時間365日、専任オペレーターを介して施設の検索ができるのだ。
「このあたりでパンダのクッキーを販売している店の情報を」
私の言葉に「パンダ？！」と部下が怪訝な顔をする。少しすると３キロほど先の洋菓子店の位置情報がMMIに送られてきた。

「よくこんなものを見つけたねえ！」
手土産を見た会長が顔を綻ばせる。同居するお孫さんがパンダが大好きで、毎週末動物園に付き合わされていると話していたのを思い出したのだ。
「そんなことまで覚えていてくれたのか……」
会長は感激した様子で、契約は無事更新できた。

「パンダのクッキー、すごい効果でしたね」と部下が笑う。
会長の性格から言って、別の店の豆大福を持参するより、お孫さんが喜ぶものを持っていった方がいいだろうと踏んだのだ。ピンチはチャンスと言われるのはきっと、追いつめられた状況が意外なアイディアを生み出してくれるからだろう。
最寄り駅で部下を降ろし、家路を急ぐ。少し道の流れが滞り始めたのを感じ、Audi connectでオンライン交通情報をチェックした。少し先で工事をしているようだ。ナビの指示に従い、別のルートを選択する。渋滞の発生や解消をリアルアイムで予測し、最適な経路を教えてくれるのでとてもありがたい。

Audi connectには他にも、万一の事故の際に正確な位置データや車両状態をSOSコールセンターに送ってくれる機能や、レッカーサービスを依頼できるオンラインロードサービスアシスタントなども備えられている。

自宅に到着し降りようとした際、ふとオンラインニュースが目に留まった。ある企業が和をテーマにしたホテルを海外でプロデュースするというニュースだった。私はその企業の連絡先を調べるとスマホに記録した。