11月某日。
娘のバレエ発表会へ。
一緒に習い事をしている娘の友達と母親を、会場まで乗せていくことになった。
運転はいつも慎重にしている方だが、家族以外を乗せる時はやはり緊張する。よその子どもを乗せている時は尚更だ。
リヤシートの娘たちが、小さな手を動かしながら振りつけの確認を始める。確か発表会で使う曲をMMIに保存していたはずだ。その曲をかけてやることにした。
マルチファンクションステアリングホイールのボタンを押すと曲が流れだし、娘たちが歓声を上げる。MMIのディスプレイまで手を伸ばさなくてもラジオやメディア、ナビや電話などをステアリングから操作できる。もちろん、音声での操作も可能だ。
A8は視線の移動を抑え、ドライビングに集中できるよう、あらゆるものが設計されている。
バーチャルコックピットはその最たるものだろう。
メーターパネル内の高解像度12.3インチカラー液晶フルデジタルディスプレイに、スピードメーター、タコメーター、アシスタンスの稼働状況、ラジオやメディア情報などをフレキシブルに表示。またMMIナビゲーションとは異なる縮尺で地図を表示することもできる。
事故はほんの一瞬で起こる。
運転中に必要な情報が目の前に集約されていること。それは地味だけれど、とても大事なことだ。
発表会が始まり、会場の照明がダウンすると自分が出るわけでもないのにドキドキした。
娘は意外と本番に強いようで、ミスすることなく自分のパートを踊りきった。その様子を見て目頭が熱くなる。
子どもの成長は速い。昨日できなかったことが今日にはもうできている。
娘が生まれてからの5年は、それまでの人生とはまったく違った幸せを私にもたらしてくれた。今日まで重ねてきた日々を思い返し、感慨に耽る。
隣をそっと盗み見ると、妻も目に涙を浮かべていた。
私は妻の手を取り、優しく握った。